テープ1 獲物を狙う 切り裂きジャック
──心の奥深い闇から恐ろしいものを引き出し、ランウェイに乗せるんだ
母親のジョイスが、リー・アレキサンダー・マックイーンの原点を明かす。学校へも行かず仕事もなかった16歳の時、仕立て職人が人手不足だと聞いて老舗テーラーで働き始め、服作りの才能に目覚めたのだ。やがてマックイーンは単身イタリアに乗り込み、ロメオ・ジリのアシスタントを務めるのだが、ジリが生意気だったマックイーンのエピソードを披露する。
帰国後、名門セント・マーチンズ美術大学に入学、卒業コレクションで人生が変わる。「ヴォーグ」の編集者で20世紀ファッション史の重要人物だったイザベラ・ブロウが、「モダンでクラシカル、美とバイオレンス。今まで見た中で一番美しい」とマックイーンの作品に惚れ込み、夫のデトマー曰く「彼をトップにすると決意」したのだった。
テープ2 ハイランド・レイプ
──現実に耳をふさぎ、世界は楽しいと思う人に現実を伝えたい
マックイーンがどうやってデビューしたかを明かすのは、エージェントのアリス・スミスだ。当時のスタッフはノーギャラで働いていたのだが、ヘアメイクのミラ・チャイ・ハイドは「彼の魅力ゆえよ」と微笑む。さらに、まだ太っていた若い頃のマックイーンの映像が流れ、「生地もすべて失業手当で買った」と無邪気に笑う。
マックイーンのデビュー・ショーの映像が流れ、「退席する人もいた」とアリスが打ち明けるが、もっと騒ぎになったショーが「ハイランド・レイプ」だ。バッシングもされたが、翌日の各紙がトップで扱い、マックイーンは時の人となる。普段は朗らかな彼のどこにそんな闇があったのか? 甥のゲーリーが、一族のある秘密を打ち明ける。
テープ3 そこはジャングルだ
──僕はやるべきことをやる。名声のためじゃない
ジバンシィのクリエイティブ・ディレクターに抜擢されたマックイーンは、礼儀正しいパリの工房に、ロンドンの反骨精神を持ちこんだ。デザイナー助手のセバスチャン・ポンスが、エキサイティングだった日々を振り返る。だが、初めてのショーは酷評され、当時の恋人だったマレー・アーサーは、その夜の荒れたマックイーンについて苦々しく語る。また、アーサーとデトマーの口から、マックイーンの裏切りが明かされる。「イザベラに見出された」と言われることに嫌気がさした彼が、彼女をジバンシィとの契約から外したのだ。
テープ4 ヴォス
──僕の私生活と仕事はすごく密着してる。ショーがあるから感情を表現できる
自分のブランドとジバンシィを行き来したこの頃が、マックイーンにとって最悪な時期だった。年10回以上のコレクションのプレッシャーに潰されかけ、ドラッグに手を出してしまったのだ。クリエイションは壮絶なまでに磨き上げられたが、人間関係は破綻する。そんな中で生まれたショーが、ウィトキンのグロテスクな写真の再現でフィナーレを飾る「ヴォス」だ。
さらに高い名声を獲得したマックイーンは、ディレクターのトム・フォードから誘われてグッチと契約、ジバンシィを去る。ロンドンに戻り、家族との絆を確かめたマックイーンは、「うまくいかず不安な時期があった。でも抜け出せた。これが僕の人生だ。天職なんだ」と呟く。
テープ5 プラトンのアトランティス島
だが、心の平安は束の間だった。マックイーンには、さらなる過酷な宿命が待ち受けていた──。